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事例4 輸入豚肉の調達不安定化に備えた国産ジビエ商品の製造販売

本事例は「食品原材料調達安定化対策事業(農林水産省)」によるものです。
同事業のその他の事例はこちらの一覧から閲覧できます。


有限会社伊吹ハム(滋賀県)

事業:加工食肉の製造販売
従業員:4名
価格高騰の影響を受けていることが証明されている輸入原材料:豚肉

輸入原材料の調達不安定化への対策として、地元産シカ肉に着目

有限会社伊吹ハムは、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの製造・販売を手掛ける、滋賀県で唯一の専業加工肉の製造業者です。主な販路は、工場隣接の直営店をはじめ県内のスーパーやサービスエリアなど。その味や品質への信頼から贈答品として購入される機会も多く、また贈り先の人がリピートするなど着実にファンを増やしています。

伊吹ハムでは、ベーコンなどの原料に輸入豚肉を用いていますが、海外産の豚肉は豚熱などが発生した際に供給が不安定化するリスクがあり、2022年初頭からは為替の影響などによる価格高騰なども発生しています。そこで同社では、安定した商品供給と利益確保のために、輸入食肉に変わる原材料調達を検討する中で地元産の「シカ肉」に着目しました。

工場周辺の伊吹山をはじめ滋賀県各地では、野生のシカによる農作物の食害や自然環境への影響が問題となっており、狩猟事業者による駆除が行われていましたが、駆除されたシカのうち食用になるのはごく一部だけで大部分が焼却処理されていました。
そのような状況の中、伊吹ハムでは狩猟事業者などからシカ肉の有効活用について相談を受けたことをきっかけに、シカ肉の加工と商品化の研究をスタートさせました。

保健所とも相談しながら衛生的な課題をクリア。独特の臭いを考慮した調理法も開発。試作を重ねる中で、価格面での折り合いが最後の課題として残りました。

生産コストの削減により、商品化への道を拓く

従来の生産体制では、一般的な畜肉製品より高価格にならざるを得ず、たとえ商品化してもジビエ(野生の鳥獣肉)製品になじみの薄い一般消費者から支持を得ることは難しい。そこで伊吹ハムでは、市場状況に見合った価格を実現するために生産コストの削減を計画しました。

商品化のターゲットとして選んだのはウインナー。ウインナーは子供を含む多くの消費者に受けられやすい商品であり、ミンチにすることで味や品質を均一化しやすく、香辛料などによって独特の臭みも抑えられるというのが主な理由です。

同社では本事業によって、0.5グラム単位での検量・自動成型が可能な真空定量充填機と高速切断機を導入し、シカ肉ウインナーの生産コスト削減に取り組みました。

従来の充填機では、熟練作業員であっても腸に肉を詰める過程で気泡が入ることで重量のばらつきが発生。規定重量以下の商品は販売できないため、意図的に重量超過になるように製造するという実態があり、このことが歩留まりの悪化を招いていました。しかし、新たな真空充填機の導入により気泡の混入がほぼゼロに。これにより超過量を従来より4グラム低減し、歩留まりの改善を実現しました。その他にも気泡を抜く作業が不要となったことや作業が自動化されたことが奏功し、充填工程の工数が4〜5割ほど削減されました。

切断機に関しても、属人的であった工程が自動化されたことで25~30%の効率化が可能になり、切断から袋詰めのプロセスにおいて、一人のスタッフが2時間ほどで200キロの商品を製造可能なレベルまでの生産性向上が実現できました。

さらに、設備の機能性向上によりアルバイトなど非熟練スタッフでも安定した製造が可能になり、今後は人件費削減などの効果も期待されています。

本事業実施による成果

【国産ジビエ肉をRTE食品として開発、量販市場への参入】
自社の既存販路における試験販売による情報収集、スーパーマーケットへの商品紹介、
地方自治体での給食等での消費の拡大の為の審査申請を実施。

【設備導入による歩留まり・生産性向上】
真空定量充填機:導入前 製品重量 5〜12%超過 → 導入後 製品重量 0.5g単位で調整可
ソーセージ切断機:導入後 裁断作業 25〜30%生産性向上

【国産原材料の使用量】
国産原材料 960kg(鹿肉 720kg、豚肉 240kg)(将来の想定使用量)

※計画に基づく令和10年までの見通し使用量

食料自給率向上の観点も交え、ジビエ文化の普及を志す

地元産ジビエを使用し試作したウインナーは、関係者による試食でも好評で「想像以上においしい」との声が多数寄せられており、伊吹ハムでは今後、商品化に向けて本格的な取り組みを進める予定です。それとあわせて販路拡大も積極的に進める計画であり、すでに学校給食への採用に向けたアプローチを開始しています。
「食育」の一環としてシカ肉製品に親しんでもらうことで、消費者にとって馴染みの薄いジビエを食肉の一つとして認知してもらう。それと同時に、従来の販売ルートやインターネット通販、クラウドファンディングも活用しながら、一般市場でもジビエの価値を広く知ってもらう。そうすることで、日本国内におけるジビエの普及拡大や新たな食文化の形成、さらに食料自給率の向上・安定化などにも貢献していきたいとしています。




本事業のポイント

消費者にとって馴染みの薄い食材の可能性・価値を広める取組

本事業では、「ジビエ」という販売消費が不安定になりがちな商品を対象としています。消費者にとって馴染みが薄く、独特な風味を持つジビエを手の取りやすい商品にすべく、研究開発を重ねました。商品化のハードルをクリアし、その後の販売ルートの確立については、店舗販売の他に、食育活動の一環という位置づけをもたせ、安定的に学校給食で使用(スポットでの消費)することで事業化を進めました。消費者にフォーカスした商品設計だけでなく、その前提となる販売・消費の枠組みを検討することで販路拡大の可能性が広がることがわかる事例です。