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事例3 地元産小麦粉を使った新商品開発と生産ラインの刷新
本事例は「食品原材料調達安定化対策事業(農林水産省)」によるものです。
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竹久夢二本舗敷島堂株式会社(岡山県)
事業:和菓子・洋菓子の製造販売
従業員:141名
価格高騰の影響を受けていることが証明されている輸入原材料:小麦
地元産小麦粉の使用量拡大への道のりで「販売価格の壁」に直面
和菓子の伝統を受け継ぎつつ、社長自ら洋菓子の本場・フランスで学んだ技と発想も取り入れ、多彩な商品を作り続ける竹久夢二本舗敷島堂株式会社。地元・岡山県内に直営8店舗を展開するほか、駅や空港、百貨店などにも商品を提供しており、素材の味を生かしたお菓子の数々は、日常のおやつや贈答品、お土産としても親しまれています。
岡山県は、全国でも有数のフルーツ産地。敷島堂では、定番商品に加え、旬の食材を用いた季節限定商品も多数ラインナップしており、マスカット、白桃やイチゴなど地元産のフルーツを積極的に活用してきました。そういった流れの中で同社では、かねてから岡山県産の小麦粉にも注目し、一部商品でも導入をしていました。
もともと同社では、海外産小麦粉を主に用いており、岡山県産小麦粉の使用量はあまり多くありませんでした。しかし、価格の高騰で状況が一変。価格が拮抗しているのであれば、「安心・安全」という付加価値を提供できる国産原材料の方がメリットが多いと考え、岡山県産小麦粉使用の本格導入へと舵を切りました。
原材料の転換を図るには、調達する小麦粉の量と質の安定化が非常に重要となります。敷島堂では、小麦生産者と対話する中で「販売量が多く見込めれば、多く生産できる」「多く生産すれば、品質が安定する」といった意見を耳にし、地域の生産者と共に進んで行く為には、岡山県産小麦粉を使用することで、小麦粉の量と質の安定化への役立ちができると考えました。その為には小麦粉の分量変更等、何度も試作と検食を重ねてきました。可能な限り“出口を広げる”ことが量と質の安定につながり、結果として国産原材料への切り替えの成功につながると確信しております。
“出口を広げる”とは、つまり岡山県産小麦粉を使った製品を多く作り・売り、岡山産小麦の需要を増やすこと。そのために敷島堂では、まず新商品の開発に着手し、まろやかな口溶けのサブレ生地でチョコレートを包んだ「生サブレ」を考案しました。
しかし、レシピの開発が順調に進む一方、販売価格の面で壁に直面します。現在の生産ラインでは1日で生産できる枚数が約8,000枚と少なく、固定費を商品代金で賄う事を考えると、お客様にとって購入しづらい価格になってしまいます。
敷島堂では、この問題を解決するために各工程の所要時間や工数を再確認。その結果、生地を焼くオーブンの性能がボトルネックであり、その解決には機器・設備の更新が必要不可欠だと判断しました。
生産ライン全体の刷新によって、生産効率だけでなく美味しさまでも向上
既存のオーブンは、焼き加減の調整が難しく、品質のバラつきや歩留まり悪化の要因になっていました。また、オーブンでの焼成以降の工程でも、ラインの途中で製品の滞留がしばしば起こっており、生産性の低下や、焼きあがった生地が過度に乾燥していまい食感が低下するといった問題につながっていました。
こういった様々な問題を一括して解決するため、敷島堂では本事業を活用して、焼成から包装まで生産ライン一式を刷新しました。
今回導入した設備は、密閉性や焼き上がりの均一性に優れた「トンネルオーブン」を中心に、包餡器、配列機、搬送機、包装機など。導入にあたっては、自社の製品や製法へのマッチングを重視し、必要に応じて鉄板の厚さやキャタピラー幅など各所をオリジナル仕様で設計。その結果、各工程の機能強化だけでなく、生産ライン全体の効率化や製品の品質向上を実現しました。
新たな設備の効果は、まず品質に表れました。焼成から包装までが機械化されたことで、温度や時間の管理が厳密になり、品質のバラつきが格段に減少。さらに、味や舌触りなどそもそもの品質も底上げさげされました。
生産性に関しても大幅な向上が見られ、生産効率は従来の6.4倍。必要人員については、以前の半分となる4人での運用が可能になりました。その分同時進行で他のお菓子の生産にあたることができるようになり、販売ピーク時であるお盆や年末年始などの連休シーズンの商品供給力がアップしました。また、生産性の向上によって残業時間が削減され、労務費の圧縮にも貢献。これらの効果によって製造コストも低下し、競争力を保てる「生サブレ」の価格設定が可能になりました。
本事業実施による成果
【生産ラインの整備による生産性の向上】
事業実施前 8名で750個/h製造 → 事業実施後 4名で2,400個/h製造
【国産原材料の使用量】
新商品の国産小麦使用量 4,351 kg増加(見込み)
※製造計画に基づいた2023年度増加量(前年比)計算値
さらなる商品開発と販路拡大で、新設備のフル稼働を目指す
生産ラインの能力と効率が改善したら、次に目指すのは稼働率の向上です。敷島堂では、新商品「生サブレ」の商品化を目指すとともに、既存商品のアップデートにも取り組むことで販売数を増加させ、生産ラインのフル稼働を目指しています。
また、岡山県産小麦粉に関しても、主力商品での使用を検討中。既存商品の原材料変更は少なからずリスクが想定されますが、同社では、商品をリニューアルするタイミングで変更すれば、既存商品をご愛顧頂けているお客様にも違和感なく受け入れてもらえると考えています。
販路に関しては、人手不足で事業の継続が困難なお菓子メーカーなどへのOEM供給や、鉄道会社などとのコラボレーション強化による認知拡大といった施策に取り組む予定です。
敷島堂では、商品力アップと販路の拡大を積極的に進めることで、将来的には新工場の建設までも視野に入れつつ、ビジネスの拡大および岡山県産小麦粉の需要拡大を目指したいとしています。
本事業のポイント
お客様目線に立った販売価格の実現には、全社的な生産性向上の取り組みが重要
本事業では、地元産小麦を使用した新製品開発と、それに伴う生産ラインの刷新を実現しました。現状の製造能力では販売価格がお客様に合わず、生産性の改善が必要でした。そこで、作業性や作業導線に注目し、現場の声を聞きながら取組を進めています。また、社内で「総合効率」という言葉を掲げて、各工程の作業時間や製品単位の設備稼働時間を計測・分析していました。それだけでなく、業務効率化について勉強会を開催しており、全社的に日々改善に取り組んでいます。経営層はもちろん、現場の作業者にまで“効率意識”が浸透することはより大きな効率改善に重要であると考えています。