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事例2 自動どら焼き生産ラインの導入による津山産小麦の使用量増加

本事例は「食品原材料調達安定化対策事業(農林水産省)」によるものです。
同事業のその他の事例はこちらの一覧から閲覧できます。


株式会社くらや(岡山県)

事業:和菓子、洋風生菓子の製造販売
従業員:16名
価格高騰の影響を受けていることが証明されている輸入原材料:小麦

原料価格が高騰する中、人員や生産能力の不足も大きな課題に

岡山県の株式会社くらやは、創業以来140年にわたって伝統の味を守り続ける老舗の菓子メーカー。岡山を代表する銘菓「いちま」や大正15年から受け継がれる「松乃露」などの和菓子から、ワッフルやロールケーキなどの洋菓子まで、昔も今も変わることなく本物の味を追求し続けています。

くらやでは、食の安全・安心への想いから“生産者の顔が見える”地元産の食材を菓子作りに用いており、和菓子には欠かせない小豆をはじめ、イチゴやブドウなど季節のフルーツを使った商品なども多数。近年では、地元・津山産の小麦を用いた菓子作りにも積極的に取り組んでいます。
津山産小麦の使用は、もともと地域振興などの観点から始まり、当初は小規模な導入に留まっていましたが、輸入小麦の仕入れ価格高騰により、価格差が大きく縮まったことから、同社では使用量を拡大。現在、どら焼きに関しては40~50%の割合で津山産小麦を使用しています。

津山産小麦と輸入小麦の価格差が縮まったとはいえ、原料の仕入れ価格が以前より高くなったことに違いはなく、利益確保のためには製造コストの削減が必須となります。
さらに現在の工場では、価格人手不足や生産能力不足にも直面しており、商品ニーズに生産が追い付かない、主力の職人が生産に追われて人材育成の時間が確保できないといった問題が発生し、生産体制の改善が急務の課題となっていました。

同社では、このような状況を打開するには、まず、生産数が最も多いどら焼きの生産工程を改善することが最優先課題と判断。そして、生産ラインを見直す中で「手作業工程」が生産の効率や数量に限界をもたらしている最大の要因だと認識し、それらを「機械化」することで、より少ない工数でより多くの生産が可能になり、製造コストの削減につながると考えました。

手作業工程の機械化に加え、生産ラインの再整備を実施

くらやでは、どら焼き生産の機械化を実現するため、本事業を活用して「全自動どら焼き機」「ピロー包装機」を導入しました。

機器の効果を最大化するためには、生産ラインの設計も重要になります。そこで同社で
は、機械メーカーとの協力を得て生産効率などを試算。その結果、複雑な機器配置は、作業導線の妨げとなる、機器の不具合につながる、メンテナンス性が低下するといったデメリットがあると考え、全工程が一直線に並ぶ形で生産ラインを再整備しました。

機械の更新は、時として品質の低下を招く場合もありますが、くらやでは「品質の低下は絶対にあってはならない」という信念のもと、事前に機械メーカーで生地づくりのテストを行うなど、機器選定の段階から綿密な準備を重ねた後、本格稼働をスタート。その結果、品質を低下させることなく生産性を上げることに成功しました。

効果としては、生産に要する時間が約40%削減されたほか、よりスピーディな生産体制が整い、増産が可能になったことで製造数は約3倍に上昇。さらに、自動化によって充填工程の原料ロスが減るといった効果も生まれており、様々な改善効果をトータルすると約20%の製造コスト削減となりました。

人員不足に関しても、かつては7~8人の人員が必要だったものが新体制では3~4人での生産できるようになったため、新商品開発や高付加価値商品の製造に職人をはじめとしたより多くの人員や時間を配分することが可能になりました。今後は、省力化によって生まれたリソースを、和菓子店の顔である「上生菓子」や季節の新商品の開発へと配分し、競合との差別化を目指す予定です。

本事業実施による成果

【どら焼き自動製造ライン導入による生産性向上】
事業実施前の生産能力 250個/h → 事業実施後の生産能力 767個/h

【国産原材料の使用量】
新商品の国産小麦使用量 776kg/年(見込み)※
既存商品を含めた国産小麦の使用量 2,246kg/年(見込み)※

【小麦粉廃棄量の削減】
設備導入前の廃棄量 258kg/年 → 設備導入後の廃棄量 70kg/年(見込み)※

※製造計画に基づく算出値

津山産小麦の付加価値を活かした商品によって、輸入小麦からの転換を促進

くらやでは、現在、新たな生産ラインを活かし、津山産小麦を用いた「桃太郎どら焼き」の増産や、地域の農産物を採り入れた新商品の開発・製造も進めています。
津山産小麦を用いた商品の種類や生産数が増えれば、当然、津山産小麦の使用量も増加となり、5年後には津山産小麦の使用量は現在の4.5倍となる約3,000キロ、生産全体に占める割合も78%まで拡大できると見込まれています。




本事業のポイント

環境変化の著しい今だからこそ、地元地域に立ち返る

本事業では、地元産小麦を使用した商品開発実現のために、自動生産ラインの導入を行いました。従来手作業であった工程が自動化し、大幅に生産性が向上。これにより地元産小麦を使った製品開発・販売に取り組める下地を完成させました。“地元があっての会社”をモットーとし、地元生産者や製造事業者との連携時の課題となっていた“生産しても消費に繋がらない“という生産者の悩みを解消し、安定的な供給体制の構築に漕ぎつけています。環境変化の著しい現在、多くの事業者がその変化に対応すべく苦慮しています。今一度、自身の置かれている地元地域に目を向けることで、新たなチャンスを見出すきっかけになるのではないでしょうか。